幸せを呼ぶ赤い雨
作 Kanoguti




§1
朝。
朝になってしまった。
昨日までの疲れが、まだ残っている。
朝。
朝朝朝朝朝。
あさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさあさ。
…仕方がないから、外に出よう。
それにしても、今日はいい天気だ。
すがすがしい曇りだ。
しかし、もうすぐ、雨が降るだろう。
雨が降ったら、また明日。
明日は夜だろう。
永遠と続く、夜だろう。
雨が降ったら、また明日。




§2
綺麗なワンピースを、今日私は着ていた。
真っ赤なワンピース…とても気に入っていた。
でも、今はもう白色。
ずっと消えることの無い、真っ白な色。
どんな色に染めようとしても、
不思議なことに何色にも染まらない、不思議なワンピース。
そのワンピースを私は着ていた。
綺麗、綺麗、綺麗な白色。
汚い、汚い、汚い白色。




§3
私は階段を上る。
階段を上るごとに、お腹が満たされていく。
何も食べていないのに、何か不思議な力が、お腹に満たされていく。
これは、ひょっとして幸せな力なのだろうか。
…どんどん、どんどん、どんどん満たされてゆく。
お腹がいっぱいになると、痛くなる。
どんな人でも、お腹いっぱいになると、苦しくなる。
苦しくなったら、吐くしかない。
吐いたら元の、私になる。




§4
なんで。
なんで。
吐いても、吐いても、元に戻らない。
私のお腹、治らない。
多分、病気なんだ。
病院に行かないと。
…でも、病院に行きたくない。
病院なんて行きたくない。
行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない行きたくない。
…痛い…痛い。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい。
苦しい苦しいくるしいクルシイクルシイ!!




§5
もういやだこんなのいやだ
くるしんでばかりなんていやだ
いやだいやだいやだ
なにもかもみんないやだ
なにもかも
みんなうまくいかない
みんなみんないやだ
いやだ




§6
もうすぐ明日になる。
明日こそ、きっと明日こそ、
幸せになろう。
真っ白なワンピース、
そしておおきなお腹と共に、
明日へ行こう。
明日と共に、さようなら。




§7
…その日。

この世界のどこかで、
赤い雨が降りました。
今日もまた、一人、
幸せを呼ぶ赤い雨によって、
幸せになりました。
しかし、その「一人」以外の人の一部は、
とても不幸になりました。
しかし、そんなことは、幸せになった「一人」にとっては関係ありません。
見事に、「一人」は、今まで忘れていた「幸せ」を、
手に入れることができました。
「幸せ」を、忘れてはいけません。




~おわり~